2019年09月
2019年09月24日
最低賃金に関するインタビュー
9月21日の産経新聞「日本の議論」において、最低賃金のあり方についてインタビューを受けました。「数字より実態に注目を」という表題で、内容は以下の通りとなっています。
――最低賃金の引き上げについてどう考えているか。
「引き上げ自体に反対ではないが、程度の問題。年に3%程度は妥当な範囲だと思うが、一部で主張された「10年連続5%アップ」などは荒唐無稽だ。日本経済の実力を超えて引き上げてしまうと副作用の方が大きい」
――日本の最低賃金は先進諸国の中でも低く、生産性も低いという指摘がある。
「それぞれの国に特有の価値観や税制、生活様式、社会保障があり、1つの指標だけで日本は悪いとはいえない。日本の生産性が低く出る主要因は、中小企業、とりわけサービス業の従事者が多く、小売店の数が多いことにある。極端な話、中小企業を減らし、コンビニや飲食店の数を半分にすれば数字上の生産性は上がるが、それが正しいことかよく考えなければならない。真に注目すべきは数字ではなく、実態。国民が今の生活水準や社会環境をどう思うかだ」
――イギリスは最低賃金引き上げの好例として挙げられる。
「最低賃金、生産性ともに見かけ上の数字は改善されたが、地方の企業はその最低賃金では人が雇えなくなり、ロンドンに賃金の高い企業が集中した。その結果、都市と地方の格差が広がり、地方の労働者階級の不満が爆発、ブレグジットの引き金になっている。イギリス、フランスなどは数字上は最低賃金も生産性も日本より高いが、日本より格差が開き、物価高で生活苦に悩む人々が増えているのが現実だ」
――最低賃金を上げれば、生産性もあがるという意見もある。
「『必要に迫られるので工夫する』は実情に即していない精神論。そもそも多くの企業がやれることは既にやっている。生産性が高く、もうかっている大企業は5%でも賃金を上げればよいが、余力がない企業は、社員、パートの人数や労働時間を減らすしかない。東京の大企業は利益を第一に求める一方、地方の企業経営者の多くは生産性を上げるより今の雇用を守る方が大切だとと考えている。都市と地方の違いを認識すべきだ」
――今、政府がすべきことは。
「最低賃金を上げることで生産性の低い企業は淘汰されていくが、そこに勤める人の多くはスキル(技能)に乏しく、簡単には再就職できない。結局、仕事を失うのは低スキルの人たち。そうした人たちを再教育し、社会に戻すシステムを早急に整備しなければならない。また、何より大切なのは学校教育。未来の国力のためには教育の底上げが必要だ。政府は目先の数字にとらわれず、長期の視点を持って実態に即した政策を実施してほしい」
――最低賃金の引き上げについてどう考えているか。
「引き上げ自体に反対ではないが、程度の問題。年に3%程度は妥当な範囲だと思うが、一部で主張された「10年連続5%アップ」などは荒唐無稽だ。日本経済の実力を超えて引き上げてしまうと副作用の方が大きい」
――日本の最低賃金は先進諸国の中でも低く、生産性も低いという指摘がある。
「それぞれの国に特有の価値観や税制、生活様式、社会保障があり、1つの指標だけで日本は悪いとはいえない。日本の生産性が低く出る主要因は、中小企業、とりわけサービス業の従事者が多く、小売店の数が多いことにある。極端な話、中小企業を減らし、コンビニや飲食店の数を半分にすれば数字上の生産性は上がるが、それが正しいことかよく考えなければならない。真に注目すべきは数字ではなく、実態。国民が今の生活水準や社会環境をどう思うかだ」
――イギリスは最低賃金引き上げの好例として挙げられる。
「最低賃金、生産性ともに見かけ上の数字は改善されたが、地方の企業はその最低賃金では人が雇えなくなり、ロンドンに賃金の高い企業が集中した。その結果、都市と地方の格差が広がり、地方の労働者階級の不満が爆発、ブレグジットの引き金になっている。イギリス、フランスなどは数字上は最低賃金も生産性も日本より高いが、日本より格差が開き、物価高で生活苦に悩む人々が増えているのが現実だ」
――最低賃金を上げれば、生産性もあがるという意見もある。
「『必要に迫られるので工夫する』は実情に即していない精神論。そもそも多くの企業がやれることは既にやっている。生産性が高く、もうかっている大企業は5%でも賃金を上げればよいが、余力がない企業は、社員、パートの人数や労働時間を減らすしかない。東京の大企業は利益を第一に求める一方、地方の企業経営者の多くは生産性を上げるより今の雇用を守る方が大切だとと考えている。都市と地方の違いを認識すべきだ」
――今、政府がすべきことは。
「最低賃金を上げることで生産性の低い企業は淘汰されていくが、そこに勤める人の多くはスキル(技能)に乏しく、簡単には再就職できない。結局、仕事を失うのは低スキルの人たち。そうした人たちを再教育し、社会に戻すシステムを早急に整備しなければならない。また、何より大切なのは学校教育。未来の国力のためには教育の底上げが必要だ。政府は目先の数字にとらわれず、長期の視点を持って実態に即した政策を実施してほしい」
2019年09月20日
トランプ大統領の焦りと株価の上昇
18日のFOMCにおいて、FRBが0.25%の追加利下げを決定しました。実は、足元の予想外の原油高はインフレ要因になるので、金利先物市場では利下げが見送られるのではないかという思惑が働いていたのですが、それは市場関係者の杞憂だったようです。
FRBの追加利上げを受けても円相場が落ち着いていたので、日銀は現状の金融緩和策を維持することを決定しました。日銀も政策手段が限られているので、円相場の動向にはほっとしていることでしょう。
9月6日の記事でもお伝えしていたように、米中の立場が逆転することを恐れ、トランプ大統領が交渉の休戦に向けて急ぎ始めているようです。中国は来年まで交渉が長引いた場合、交渉が決裂してもいいと考えているからです。交渉が決裂したまま大統領選に突入すれば、習近平国家主席が強烈に不信感を抱くトランプ大統領の再選は極めて難しくなるのです。
これら一連の動きを受けて、日経平均は2万2000円を超えてきましたが、この先は米中合意を完全に織り込めば、2万3000円が射程圏に入ってきます。もちろん、織り込むかどうかは今後の米中の動向次第ですので、中東の情勢も含めて、好材料と悪材料の両方を想定して対処していきたいところです。
FRBの追加利上げを受けても円相場が落ち着いていたので、日銀は現状の金融緩和策を維持することを決定しました。日銀も政策手段が限られているので、円相場の動向にはほっとしていることでしょう。
9月6日の記事でもお伝えしていたように、米中の立場が逆転することを恐れ、トランプ大統領が交渉の休戦に向けて急ぎ始めているようです。中国は来年まで交渉が長引いた場合、交渉が決裂してもいいと考えているからです。交渉が決裂したまま大統領選に突入すれば、習近平国家主席が強烈に不信感を抱くトランプ大統領の再選は極めて難しくなるのです。
これら一連の動きを受けて、日経平均は2万2000円を超えてきましたが、この先は米中合意を完全に織り込めば、2万3000円が射程圏に入ってきます。もちろん、織り込むかどうかは今後の米中の動向次第ですので、中東の情勢も含めて、好材料と悪材料の両方を想定して対処していきたいところです。
2019年09月13日
東洋経済オンラインの連載を保留する理由
国の政策や方向性について議論をするのは、基本的に良いことだと思っています。ですから、建設的な議論は大歓迎であります。
ところが、議論をするうえで絶対にやってはいけないことがあります。それは、口汚い表現を使って相手をののしることです。
デービッド・アトキンソン氏の記事がその典型です。その記事のなかでは、私が最低賃金の引き上げ反対論者とされていて、「無知すぎて呆れる」と誹謗されているのです。
そもそも私は最低賃金の引き上げに反対ではないのですが、日本経済の実力を超えて引き上げてしまうと副作用の方が大きいと申し上げてきました。海外の研究論文を論拠にするより、ビジネスの現場の実態や日本の近年の研究論文のほうが信頼するに値すると考えているからです。
アトキンソン氏に申し上げたいのは、「批判をするのは構わないが、私の文章をしっかりと読んだうえで批判を展開してもらいたい」ということです。引き上げ反対論者ではない私を反対論者として記事にすることは、事実の歪曲に当たります。
彼の歪曲に協力している東洋経済オンラインは、言論メディアとしていかがなものかと思っています。東洋経済が書籍の売上げに貢献している彼に頭が上がらないのは理解できますが、同社が健全で公正な運営に改まらないかぎり、私に連載を続けていくモチベーションはありません。
ところが、議論をするうえで絶対にやってはいけないことがあります。それは、口汚い表現を使って相手をののしることです。
デービッド・アトキンソン氏の記事がその典型です。その記事のなかでは、私が最低賃金の引き上げ反対論者とされていて、「無知すぎて呆れる」と誹謗されているのです。
そもそも私は最低賃金の引き上げに反対ではないのですが、日本経済の実力を超えて引き上げてしまうと副作用の方が大きいと申し上げてきました。海外の研究論文を論拠にするより、ビジネスの現場の実態や日本の近年の研究論文のほうが信頼するに値すると考えているからです。
アトキンソン氏に申し上げたいのは、「批判をするのは構わないが、私の文章をしっかりと読んだうえで批判を展開してもらいたい」ということです。引き上げ反対論者ではない私を反対論者として記事にすることは、事実の歪曲に当たります。
彼の歪曲に協力している東洋経済オンラインは、言論メディアとしていかがなものかと思っています。東洋経済が書籍の売上げに貢献している彼に頭が上がらないのは理解できますが、同社が健全で公正な運営に改まらないかぎり、私に連載を続けていくモチベーションはありません。
2019年09月06日
来年になれば、米中の立場が逆転するかも
ここ数カ月の経済指標を見ると、米中貿易摩擦のあおりを受けて、アメリカの農業が大打撃を受けているばかりか、製造業の雇用までもが減少してきています。前回の大統領選で勝敗のカギを握ったラストベルトの各州では、とりわけ製造業の雇用が落ち込みを見せ始めています。
来年11月のアメリカ大統領選までのスケジュールを考えると、トランプ大統領は米中貿易摩擦を来年の春先までに休戦、または収束へ向かわせる必要があります。それができなければ、支持基盤である農業や製造業に従事する人々から見放され、大統領選に敗れる可能性が高まっていきます。
これまではアメリカが一切の妥協をせずに中国を強く攻め立てていましたが、中国があと数カ月も我慢すれば、トランプ大統領のほうが合意を急がなければならない状況に追い込まれてくるでしょう。米中貿易摩擦は中国のほうが不利だと言われてきたなかで、来年になればアメリカのほうが多少の妥協をしてでも、合意をしなければならないのではないでしょうか。
来年11月のアメリカ大統領選までのスケジュールを考えると、トランプ大統領は米中貿易摩擦を来年の春先までに休戦、または収束へ向かわせる必要があります。それができなければ、支持基盤である農業や製造業に従事する人々から見放され、大統領選に敗れる可能性が高まっていきます。
これまではアメリカが一切の妥協をせずに中国を強く攻め立てていましたが、中国があと数カ月も我慢すれば、トランプ大統領のほうが合意を急がなければならない状況に追い込まれてくるでしょう。米中貿易摩擦は中国のほうが不利だと言われてきたなかで、来年になればアメリカのほうが多少の妥協をしてでも、合意をしなければならないのではないでしょうか。



