2015年04月
2015年04月28日
「デフレ=不況」は歴史的事実を無視している(1)
ベン・バーナンキは恐慌の研究では最も高名な経済学者の1人ですが、彼は大恐慌の時期のアメリカだけを分析して、「デフレ=不況」という誤った結論を導き出しました。歴史学の見地からすると、彼の結論は非常に稚拙なものであるわけですが、アメリカの主流派経済学ではそれが常識となってしまっています。
実のところ、アメリカの大恐慌だけでなく、他の国々の不況とデフレの関連性を調べてみると、多くの経済学者の思い込みを打ち砕く驚くべき事実を知ることができます。その模範的な研究として、ここではアンドリュー・アトキンソンとパトリック・J・キホーの2人が2004年1月に発表した論文「デフレと不況は実証的に関連するのか?」を簡潔に紹介したいと思います。

まず、上の図は何を表しているのかというと、1929年から1934年までの世界大恐慌時における主要16カ国の平均インフレ率と実質経済成長率をプロットしたものです。この図からわかるのは、世界大恐慌時には16カ国すべてがデフレを経験しましたが、そのうち8カ国が「デフレ」と「不況」を同時に経験し、残りの8カ国はデフレだけを経験していたということです。
アトキンソンとキホーによれば、景気後退の観点から判断して、この図からは「デフレ」と「不況」に関連性があるかどうかはわからないといいます。実際に彼らだけでなく、世界大恐慌の研究者のなかには少数派ではあるものの、バーナンキの研究結果に懐疑的に見解を持つ経済学者がいますし、この関連性がどのくらい強いかという点で、認識は決して一致していません。
そこで、アトキンソンとキホーは大恐慌に関する議論を進める中で、世界経済の歴史を俯 瞰することによって、デフレと不況の関係性の有無を見出せるのではないかと考えました。このような考え方は歴史学では当たり前の手法であるのですが、当時の経済学では革新的なものであったと言えるでしょう。
彼らは、世界大恐慌時を除いた1820年~2000年の非常に長い期間において、主要17ヵ国の各5年間平均の実質経済成長率とインフレ率をプロットしました。下の図はそれを示したものですが、この図からわかるのは、全595例(大恐慌の時期の5年を除く)のうちデフレの事例は73例ありましたが、「デフレ」で「不況」の両方を経験したのはわずか8例に過ぎなかったということです。おまけに、不況の事例は29例あったものの、そのうちデフレであったのは8例しかなく、インフレであったのは21例もあったのです。

デフレの事例の89%が不況どころか経済成長していたことを発見した彼らは、「大恐慌だけに限定せずに歴史的な文脈でみると、デフレと不況に関連性があるという観念は消えてしまう」と分析しています。
大恐慌以外のその他の時代をきちんと検証すれば、デフレと不況の関連性はまったくなく、デフレ期の90%近くは好況と重なっていたことが確認できるし、むしろ、インフレと不況の関連性のほうが高いという事実も認めざるをえないのです。
しかしながら、この貴重な論文は経済学のメインフィールドで日の目を見ることはありませんでした。デフレと不況のあいだには関連性がなく、インフレと不況の関係性のほうが強いとするこの論文が注目されなかったのは、経済学の権威に黙殺されたからに他なりません。
20年くらい前の日本の歴史学界にも「たとえ間違っていても、権威ある学者が提唱する学説が尊重される」という傾向がありましたが、さすがに今ではそのようなことはないと聞いています。アメリカの主流派経済学は、学問においては非常に遅れていると言えるのではないでしょうか。
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実のところ、アメリカの大恐慌だけでなく、他の国々の不況とデフレの関連性を調べてみると、多くの経済学者の思い込みを打ち砕く驚くべき事実を知ることができます。その模範的な研究として、ここではアンドリュー・アトキンソンとパトリック・J・キホーの2人が2004年1月に発表した論文「デフレと不況は実証的に関連するのか?」を簡潔に紹介したいと思います。

まず、上の図は何を表しているのかというと、1929年から1934年までの世界大恐慌時における主要16カ国の平均インフレ率と実質経済成長率をプロットしたものです。この図からわかるのは、世界大恐慌時には16カ国すべてがデフレを経験しましたが、そのうち8カ国が「デフレ」と「不況」を同時に経験し、残りの8カ国はデフレだけを経験していたということです。
アトキンソンとキホーによれば、景気後退の観点から判断して、この図からは「デフレ」と「不況」に関連性があるかどうかはわからないといいます。実際に彼らだけでなく、世界大恐慌の研究者のなかには少数派ではあるものの、バーナンキの研究結果に懐疑的に見解を持つ経済学者がいますし、この関連性がどのくらい強いかという点で、認識は決して一致していません。
そこで、アトキンソンとキホーは大恐慌に関する議論を進める中で、世界経済の歴史を俯 瞰することによって、デフレと不況の関係性の有無を見出せるのではないかと考えました。このような考え方は歴史学では当たり前の手法であるのですが、当時の経済学では革新的なものであったと言えるでしょう。
彼らは、世界大恐慌時を除いた1820年~2000年の非常に長い期間において、主要17ヵ国の各5年間平均の実質経済成長率とインフレ率をプロットしました。下の図はそれを示したものですが、この図からわかるのは、全595例(大恐慌の時期の5年を除く)のうちデフレの事例は73例ありましたが、「デフレ」で「不況」の両方を経験したのはわずか8例に過ぎなかったということです。おまけに、不況の事例は29例あったものの、そのうちデフレであったのは8例しかなく、インフレであったのは21例もあったのです。

デフレの事例の89%が不況どころか経済成長していたことを発見した彼らは、「大恐慌だけに限定せずに歴史的な文脈でみると、デフレと不況に関連性があるという観念は消えてしまう」と分析しています。
大恐慌以外のその他の時代をきちんと検証すれば、デフレと不況の関連性はまったくなく、デフレ期の90%近くは好況と重なっていたことが確認できるし、むしろ、インフレと不況の関連性のほうが高いという事実も認めざるをえないのです。
しかしながら、この貴重な論文は経済学のメインフィールドで日の目を見ることはありませんでした。デフレと不況のあいだには関連性がなく、インフレと不況の関係性のほうが強いとするこの論文が注目されなかったのは、経済学の権威に黙殺されたからに他なりません。
20年くらい前の日本の歴史学界にも「たとえ間違っていても、権威ある学者が提唱する学説が尊重される」という傾向がありましたが、さすがに今ではそのようなことはないと聞いています。アメリカの主流派経済学は、学問においては非常に遅れていると言えるのではないでしょうか。
2015年04月21日
浜田宏一氏、リフレ政策の旗を下げる?
昨年9月22日の記事『幻想から目を覚ましつつある浜田氏と岩田氏』では、「金融政策だけで景気は回復できる」という立場の浜田宏一氏・岩田規久男氏の両名の変節ぶりを指摘したうえで、日本がアメリカのインフレ目標を模倣すると、国家は借金を減価し、富裕層はさらに豊かになる一方で、大多数の国民は生活がいっそう苦しくなってしまうということを説明いたしました。
このことが歴史的に証明されているのは、アメリカ国民の実質賃金の推移を見れば一目瞭然なのですが、それについては次回に述べるとして、4月14日の日経新聞には「浜田内閣官房参与に聞く」という驚くべき内容のインタビュー記事が掲載されていました。その記事の中では、浜田氏の変節ぶりがさらに加速しているのが見て取れましたので、日経新聞の記事を以下に転載させていただきます。
(以下、日経新聞4月14日の記事の前半部を転載)
――物価上昇率を2年で2%にするとした日銀の目標をどうみますか。
「インフレ目標はそんなに重要ではない。インフレを起こすのは国民に対する課税だからできるだけ避けたい。日銀も我々も2~3年前に石油価格が半分以下になるとは思っていなかった。その責任を日銀がとる必要はないから(エネルギー価格の影響などを含んだ)消費者物価指数を目標とするのは合理的ではない。(デフレの主因である)需給ギャップが狭まっていることは間違いない。2%というのはどちらかといえばインフレの上限と見るべきだ」
「雇用の方を目標にするのが正攻法だ。(安定雇用のための)手段として中間目標の物価目標がある。完全雇用で成長率が良ければ(2%目標に)こだわる必要はないといってもよい。ただ、今の状態ではインフレにしない限りそういう事態にはできない」
(転載終わり)
私はこれまでの拙書において、インフレ目標への批判として「2000年以降の先進国では、インフレは税金と変わらないので、インフレ目標を採用すると実質賃金が低下していくのは必然である」、「今後数年以内にエネルギー価格は大幅に下がる見通しにあるので、無理にインフレにしなければ日本国民の生活水準は向上するだろう」、「日本に必要なのは、金融緩和ではなく良質な雇用である」などと強く訴えてきました。
その一方で、浜田氏はこれまで、「インフレにすれば、景気は回復する」、「インフレにすれば、庶民生活は向上する」、「4%くらいのインフレを目指してもいい」という類の主張を繰り返し、アベノミクスを理論的に支えてきました。
その結果として、日本国民の実質賃金(2013年~2014年の2年間)がリーマンショック時と匹敵するくらい下がったことは、このブログや拙書をご覧になっている方々はご存知のことでしょう。(正確に言うと、実質賃金の下落の半分は円安インフレ、半分は消費増税によるものです。)
いずれにしても、日経新聞のインタビューで浜田氏が言っていることは、反インフレ目標の立場を取る私の主張にかなり近付いて来ているように思えるのですが、みなさんはどのようにお考えになるでしょうか。
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このことが歴史的に証明されているのは、アメリカ国民の実質賃金の推移を見れば一目瞭然なのですが、それについては次回に述べるとして、4月14日の日経新聞には「浜田内閣官房参与に聞く」という驚くべき内容のインタビュー記事が掲載されていました。その記事の中では、浜田氏の変節ぶりがさらに加速しているのが見て取れましたので、日経新聞の記事を以下に転載させていただきます。
(以下、日経新聞4月14日の記事の前半部を転載)
――物価上昇率を2年で2%にするとした日銀の目標をどうみますか。
「インフレ目標はそんなに重要ではない。インフレを起こすのは国民に対する課税だからできるだけ避けたい。日銀も我々も2~3年前に石油価格が半分以下になるとは思っていなかった。その責任を日銀がとる必要はないから(エネルギー価格の影響などを含んだ)消費者物価指数を目標とするのは合理的ではない。(デフレの主因である)需給ギャップが狭まっていることは間違いない。2%というのはどちらかといえばインフレの上限と見るべきだ」
「雇用の方を目標にするのが正攻法だ。(安定雇用のための)手段として中間目標の物価目標がある。完全雇用で成長率が良ければ(2%目標に)こだわる必要はないといってもよい。ただ、今の状態ではインフレにしない限りそういう事態にはできない」
(転載終わり)
私はこれまでの拙書において、インフレ目標への批判として「2000年以降の先進国では、インフレは税金と変わらないので、インフレ目標を採用すると実質賃金が低下していくのは必然である」、「今後数年以内にエネルギー価格は大幅に下がる見通しにあるので、無理にインフレにしなければ日本国民の生活水準は向上するだろう」、「日本に必要なのは、金融緩和ではなく良質な雇用である」などと強く訴えてきました。
その一方で、浜田氏はこれまで、「インフレにすれば、景気は回復する」、「インフレにすれば、庶民生活は向上する」、「4%くらいのインフレを目指してもいい」という類の主張を繰り返し、アベノミクスを理論的に支えてきました。
その結果として、日本国民の実質賃金(2013年~2014年の2年間)がリーマンショック時と匹敵するくらい下がったことは、このブログや拙書をご覧になっている方々はご存知のことでしょう。(正確に言うと、実質賃金の下落の半分は円安インフレ、半分は消費増税によるものです。)
いずれにしても、日経新聞のインタビューで浜田氏が言っていることは、反インフレ目標の立場を取る私の主張にかなり近付いて来ているように思えるのですが、みなさんはどのようにお考えになるでしょうか。
keizaiwoyomu at 11:55|この記事のURL│金融政策の分析・予測
2015年04月14日
経済分野の偏向報道に惑わされないためには
今回も、『これから日本で起こること』(2015年1月出版)のキャンペーンにお申込みいただいた方々に2月28日にお送りした『経済展望レポート』から一部分を引用して、最後に補足を加えたいと思います。
(以下、『経済展望レポート』より一部引用)
いよいよ、(4)の日本経済の見通しについて述べたいと思います。日本経済については、複数の大手新聞によってかなり歪められて伝えられている可能性があります。与党の議員のなかには、本気で景気がいいと思っている人がいるくらいなのです。
産経新聞や読売新聞が政権のプロパガンダ機関になり果ててしまい、朝日新聞は捏造問題を本当に反省しているのかわからない状況において、日本経済新聞は今のところ唯一、中立性・公平性を担保できている大手新聞であると言えそうです(毎日新聞については読んでいないので、私自身は判断ができません)。
アベノミクスについて功罪の両面から記事を掲載してきたのは、あるいは、日本経済についてバイアスをかけずに報道してきたのは、私の知る限り、日本経済新聞だけであると思います。(以下、数行の文章はオフレコに近い発言のため、引用ではありますが削除しております。)
話が脱線してしまいましたが、2月23日の日経新聞一面では、日本経済新聞社とテレビ東京が実施した世論調査において、景気回復の実感を聞くと、「実感していない」が81%であるのに対して、「実感している」は13%にとどまったこと、アベノミクスを「評価する」は39%で「評価しない」の41%と拮抗したことなどを報じています。
私もいろいろな場で「アベノミクスの恩恵を受けているのは約2割の人々に過ぎない」と訴えてきましたが、この世論調査でも概ねそれに近い結果が出ています。
2014年10-12月期のGDPは2.2%増と3四半期ぶりにプラス成長を確保しました。しかし、日本経済は円安による実質賃金の低下という悪影響からはまだ脱すことができていません。住宅投資が3四半期連続で落ち込んだほか、家電や自動車などの耐久消費財の伸びも鈍く、設備投資も横ばいにとどまっています。
つまり、2013年度の成長は、実質的に増税前の駆け込み需要が9割を占める成長であったのです。デジタル家電などのエコポイントの反動がそうであったように、駆け込み需要を必要以上に促進させると、その後に苦労するのは当たり前のことだったわけです。その結果として、2015年1-3月期のGDPを見るまでもなく、2014年度はマイナス成長に陥る結果となるでしょう。
ただし、2015年度は原油安という追い風が吹くので、それだけで1.0%~1.5%程度の成長の底上げが期待できます。家計にとって原油安は減税効果と同じ効果をもたらし、消費を刺激することになります。それだけでなく、企業にとって収益改善効果をもたらし、生産性を高めることにもなるのです。
また、株価が1万8000円超の水準を維持できれば、富裕層が2013年前半ほどではないにしても、高額消費を増やすことが期待できます。今のままであっても、2.0%程度のプラス成長は十分に達成できるわけです。
ただし、今春の賃金上昇の波は大企業を中心に浸透したとしても、中小零細企業にはなかなか広がっていくことは難しいでしょう。トリクルダウンが起きにくい状況のなかで、アメリカの利上げをきっかけに円安が一段と進むようなことがあれば、日本経済は2015年秋頃から失速感を強めることも念頭に入れておく必要がありそうです。
(引用終わり)
補足を加えると、今年の政府の経済に関する広報戦略はすでに決まっています。4月以降のGDPや実質賃金などの指標については、政府は国民に対して「前年同期(同月)比でプラスになった」と説明して、アベノミクスの成果をここぞとばかりに強調してくることでしょう。
しかし私たちは、たとえ「原油安の恩恵」を「アベノミクスの成果」にすり替えるような説明をされたとしても、大事なのは「前年同期(同月)比の数字」ではなく、2013年以降の推移そのものであるということを認識しておかねばなりません。
数字の推移そのものを冷静に見ていかなければ、マスコミの大本営発表にまんまと乗せられてしまいかねないのです。
経済の分野に限らず、マスコミの報道を見ていて、この2年間で怖ろしく偏向報道が増えているように感じています。それは、歴史が証明しているように、日本にとって由々しき事態であると言えるのでないでしょうか。
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(以下、『経済展望レポート』より一部引用)
いよいよ、(4)の日本経済の見通しについて述べたいと思います。日本経済については、複数の大手新聞によってかなり歪められて伝えられている可能性があります。与党の議員のなかには、本気で景気がいいと思っている人がいるくらいなのです。
産経新聞や読売新聞が政権のプロパガンダ機関になり果ててしまい、朝日新聞は捏造問題を本当に反省しているのかわからない状況において、日本経済新聞は今のところ唯一、中立性・公平性を担保できている大手新聞であると言えそうです(毎日新聞については読んでいないので、私自身は判断ができません)。
アベノミクスについて功罪の両面から記事を掲載してきたのは、あるいは、日本経済についてバイアスをかけずに報道してきたのは、私の知る限り、日本経済新聞だけであると思います。(以下、数行の文章はオフレコに近い発言のため、引用ではありますが削除しております。)
話が脱線してしまいましたが、2月23日の日経新聞一面では、日本経済新聞社とテレビ東京が実施した世論調査において、景気回復の実感を聞くと、「実感していない」が81%であるのに対して、「実感している」は13%にとどまったこと、アベノミクスを「評価する」は39%で「評価しない」の41%と拮抗したことなどを報じています。
私もいろいろな場で「アベノミクスの恩恵を受けているのは約2割の人々に過ぎない」と訴えてきましたが、この世論調査でも概ねそれに近い結果が出ています。
2014年10-12月期のGDPは2.2%増と3四半期ぶりにプラス成長を確保しました。しかし、日本経済は円安による実質賃金の低下という悪影響からはまだ脱すことができていません。住宅投資が3四半期連続で落ち込んだほか、家電や自動車などの耐久消費財の伸びも鈍く、設備投資も横ばいにとどまっています。
つまり、2013年度の成長は、実質的に増税前の駆け込み需要が9割を占める成長であったのです。デジタル家電などのエコポイントの反動がそうであったように、駆け込み需要を必要以上に促進させると、その後に苦労するのは当たり前のことだったわけです。その結果として、2015年1-3月期のGDPを見るまでもなく、2014年度はマイナス成長に陥る結果となるでしょう。
ただし、2015年度は原油安という追い風が吹くので、それだけで1.0%~1.5%程度の成長の底上げが期待できます。家計にとって原油安は減税効果と同じ効果をもたらし、消費を刺激することになります。それだけでなく、企業にとって収益改善効果をもたらし、生産性を高めることにもなるのです。
また、株価が1万8000円超の水準を維持できれば、富裕層が2013年前半ほどではないにしても、高額消費を増やすことが期待できます。今のままであっても、2.0%程度のプラス成長は十分に達成できるわけです。
ただし、今春の賃金上昇の波は大企業を中心に浸透したとしても、中小零細企業にはなかなか広がっていくことは難しいでしょう。トリクルダウンが起きにくい状況のなかで、アメリカの利上げをきっかけに円安が一段と進むようなことがあれば、日本経済は2015年秋頃から失速感を強めることも念頭に入れておく必要がありそうです。
(引用終わり)
補足を加えると、今年の政府の経済に関する広報戦略はすでに決まっています。4月以降のGDPや実質賃金などの指標については、政府は国民に対して「前年同期(同月)比でプラスになった」と説明して、アベノミクスの成果をここぞとばかりに強調してくることでしょう。
しかし私たちは、たとえ「原油安の恩恵」を「アベノミクスの成果」にすり替えるような説明をされたとしても、大事なのは「前年同期(同月)比の数字」ではなく、2013年以降の推移そのものであるということを認識しておかねばなりません。
数字の推移そのものを冷静に見ていかなければ、マスコミの大本営発表にまんまと乗せられてしまいかねないのです。
経済の分野に限らず、マスコミの報道を見ていて、この2年間で怖ろしく偏向報道が増えているように感じています。それは、歴史が証明しているように、日本にとって由々しき事態であると言えるのでないでしょうか。
2015年04月07日
アメリカの経済成長鈍化は既定路線
今回は、『これから日本で起こること』(2015年1月出版)のキャンペーンにお申込みいただいた方々に2月28日にお送りした『経済展望レポート』から一部分を引用して、その上で補足を加えたいと思います。
(以下、『経済展望レポート』より一部引用)
次は、(3)のアメリカ経済の見通しについてです。アメリカの経済は長期金利が2%程度を保っているうえに、原油安の恩恵もあり、少なくとも今年の前半は好調を持続することができると思われます。ただし、今年の1-3月期や4-6月期のGDPはそれほど伸びが期待できないと断っておく必要もあるでしょう。
経済の好調を持続できるポイントとして今のところ考えられるのは、「長期金利が2%程度に低位安定すること」と「原油価格が現在の水準を保つこと」の主に二つになると思われます。つまり、今のアメリカでは低インフレを持続させなければ、個人消費を中心とした本当の意味での景気回復は達成できないわけです。
これは後で述べることですが、イエレン議長が利上げをできるだけ先延ばしにしたい核心には、「雇用の質の劣化」とともに、この「低インフレの持続」にあるのだろうと、私は考えています。
これまでの言動を見る限りでは、イエレン議長は明らかにバーナンキ前議長とは異なり、決してインフレ礼賛派ではありません。実際の国民生活を良く見て、金融政策を決定していこうとしています。彼女自身が「低インフレの持続」を望むなどということは、ウォール街の反発があるために決して口には出しませんが、言動を冷静に見れば見るほど、私はそのような結論に達してしまうのです。
イエレン議長が重視するU6、すなわち、正規雇用を希望しているのに非正規のパートタイムに甘んじている人々や仕事探しをあきらめた人々を含める「広義の失業率」は、直近の1月の雇用統計では11.3%となっています。私がこれまでアメリカが本当の意味では景気回復をしていないと言ってきた理由も、この広義の失業率が高いということにあります。
11.3%という数字は、2008年の金融危機前に比べて3%近く高い水準にあります。この数字は、経済指標が好調ななかでも、雇用回復の質が伴っていないとされる代表的な証拠であると言えるわけです。
アメリカの庶民の生活は依然として苦しい状態にありますが、ドル高や原油安が庶民の実質賃金を引き上げ、消費を増加させることが期待されています。ただし、消費の増加は輸入を増加させ、アメリカのGDPを引き下げる作用を及ぼすことを念頭に置いていかなければならないでしょう。
おまけに、これまでGDPの増加分のなかで突出していた企業部門の収益が、ドル高によって伸び悩んできています。アメリカの主要企業の2014年10-12月期の増益率は6%程度と減速していますが、2015年1-3月期はゼロ近辺に落ちるのではないかとも言われています。
ですから私は、今年の1-3月期や4-6月期のGDPはそれほど伸びが期待できない(市場予想は下回る)と考えております。「企業収益の増加=実質賃金の増加」あるいは「庶民生活の向上=GDPの増加」という過去の公式は、今や通用しなくなってきているのです。
(引用終わり)
補足を加えると、2015年前半のアメリカは、庶民生活はいくぶん楽になるものの、GDPや企業収益が伸び悩んでくることが予想されます。
トムソン・ロイターがまとめた直近の予想によれば、主要500社の2015年1-3月期の1株当たり利益は前年同期比で2.7%減、4-6月期も0.1%減になるということです。減益は2009年7-9月期以来となります。
そのように考えると、FOMCは4-6月期の企業業績や経済成長率の結果を見極めない限りは利上げなどできるわけがありません。そして、その結果が思わしくなければ、2015年12月や2016年以降に先送りされることも考えられるわけです。
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(以下、『経済展望レポート』より一部引用)
次は、(3)のアメリカ経済の見通しについてです。アメリカの経済は長期金利が2%程度を保っているうえに、原油安の恩恵もあり、少なくとも今年の前半は好調を持続することができると思われます。ただし、今年の1-3月期や4-6月期のGDPはそれほど伸びが期待できないと断っておく必要もあるでしょう。
経済の好調を持続できるポイントとして今のところ考えられるのは、「長期金利が2%程度に低位安定すること」と「原油価格が現在の水準を保つこと」の主に二つになると思われます。つまり、今のアメリカでは低インフレを持続させなければ、個人消費を中心とした本当の意味での景気回復は達成できないわけです。
これは後で述べることですが、イエレン議長が利上げをできるだけ先延ばしにしたい核心には、「雇用の質の劣化」とともに、この「低インフレの持続」にあるのだろうと、私は考えています。
これまでの言動を見る限りでは、イエレン議長は明らかにバーナンキ前議長とは異なり、決してインフレ礼賛派ではありません。実際の国民生活を良く見て、金融政策を決定していこうとしています。彼女自身が「低インフレの持続」を望むなどということは、ウォール街の反発があるために決して口には出しませんが、言動を冷静に見れば見るほど、私はそのような結論に達してしまうのです。
イエレン議長が重視するU6、すなわち、正規雇用を希望しているのに非正規のパートタイムに甘んじている人々や仕事探しをあきらめた人々を含める「広義の失業率」は、直近の1月の雇用統計では11.3%となっています。私がこれまでアメリカが本当の意味では景気回復をしていないと言ってきた理由も、この広義の失業率が高いということにあります。
11.3%という数字は、2008年の金融危機前に比べて3%近く高い水準にあります。この数字は、経済指標が好調ななかでも、雇用回復の質が伴っていないとされる代表的な証拠であると言えるわけです。
アメリカの庶民の生活は依然として苦しい状態にありますが、ドル高や原油安が庶民の実質賃金を引き上げ、消費を増加させることが期待されています。ただし、消費の増加は輸入を増加させ、アメリカのGDPを引き下げる作用を及ぼすことを念頭に置いていかなければならないでしょう。
おまけに、これまでGDPの増加分のなかで突出していた企業部門の収益が、ドル高によって伸び悩んできています。アメリカの主要企業の2014年10-12月期の増益率は6%程度と減速していますが、2015年1-3月期はゼロ近辺に落ちるのではないかとも言われています。
ですから私は、今年の1-3月期や4-6月期のGDPはそれほど伸びが期待できない(市場予想は下回る)と考えております。「企業収益の増加=実質賃金の増加」あるいは「庶民生活の向上=GDPの増加」という過去の公式は、今や通用しなくなってきているのです。
(引用終わり)
補足を加えると、2015年前半のアメリカは、庶民生活はいくぶん楽になるものの、GDPや企業収益が伸び悩んでくることが予想されます。
トムソン・ロイターがまとめた直近の予想によれば、主要500社の2015年1-3月期の1株当たり利益は前年同期比で2.7%減、4-6月期も0.1%減になるということです。減益は2009年7-9月期以来となります。
そのように考えると、FOMCは4-6月期の企業業績や経済成長率の結果を見極めない限りは利上げなどできるわけがありません。そして、その結果が思わしくなければ、2015年12月や2016年以降に先送りされることも考えられるわけです。
2015年04月01日
格差大国アメリカを追う日本のゆくえ
(朝日新聞出版)2015/4/7発売
4月7日に新刊 『格差大国アメリカを追う日本のゆくえ』 (朝日新聞出版)が出版されます。目次は以下の通りです。
第1章 中間層が没落するアメリカ
第2章 なぜ格差は拡大したのか
第3章 経済学は何のためにあるのか
第4章 中間層と国家の盛衰
第5章 21世紀のインフレ政策は間違っている
第6章 世界の模範となる日本
つい先週のことですが、世界保健機関(WHO)の専門組織である「国際がん研究機関」は、米モンサント社が開発した除草剤「グリサホート」に発がん性の恐れがあると公表しました。かねてからグリサホートの安全性を危惧する声はあったのですが、世界各国では農産物を生産する際にこの除草剤がすでに使われてしまっています。
経済的な事象や歴史的な考察にとどまらず、こういった問題が何故起こっているのかについても切り込んでいますので、興味がございましたら、ぜひご覧いただきたいと思っております。
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4月7日に新刊 『格差大国アメリカを追う日本のゆくえ』 (朝日新聞出版)が出版されます。目次は以下の通りです。
第1章 中間層が没落するアメリカ
第2章 なぜ格差は拡大したのか
第3章 経済学は何のためにあるのか
第4章 中間層と国家の盛衰
第5章 21世紀のインフレ政策は間違っている
第6章 世界の模範となる日本
つい先週のことですが、世界保健機関(WHO)の専門組織である「国際がん研究機関」は、米モンサント社が開発した除草剤「グリサホート」に発がん性の恐れがあると公表しました。かねてからグリサホートの安全性を危惧する声はあったのですが、世界各国では農産物を生産する際にこの除草剤がすでに使われてしまっています。
経済的な事象や歴史的な考察にとどまらず、こういった問題が何故起こっているのかについても切り込んでいますので、興味がございましたら、ぜひご覧いただきたいと思っております。



