2013年04月
2013年04月22日
「財政危機」と「財政破綻」は分けて考えなければならない
私は今まで「日本で財政危機は起こる可能性があるが、財政破綻は絶対に起きない」という主張をしてきました。その理由は、日本国債の利回りが急騰して財政危機が起こったとしても、日本には海外に比べて増税余地が多分にあるからです。
その意味では、「財政危機」と「財政破綻」はきっちりと分けて考える必要があります。「国債暴落=国家破綻」と短絡的に考えていると、事態の推移を大きく見誤ってしまいます。おまけに、日本の破綻など、海外の国々はもちろん、日本国民が認めるはずがないのです。
そのことについて、拙書「2013年 大暴落後の日本経済」(2011年出版)からの引用になりますが、象徴する文章をご紹介したいと思います。
(以下、拙書第5章の「日本は財政破綻しない」より引用)
最近、書店に行くと、「日本は財政破綻する」といった内容の本が目につくようになりました。欧州の財政危機が日本のメディアでも繰り返し報道されるようになり、国民の間にも危機感が広まりつつある証拠であるのかもしれません。
しかし私は、日本が財政破綻することはないと考えています。なぜなら、日本は大増税と歳出削減をセットで行えば、財政危機の難局を乗り越えることができるからです。他の国々に比べ、日本にはまだ消費税増税の余地が多分にあります。
OECD加盟国で見ると、欧州を中心に大半の国々では、日本の消費税に当たる付加価値税が15%~25%の水準で課せられています。税率が高い順番に並べてみると、アイスランドの25・5%を筆頭に、スウェーデン、ノルウェー、デンマーク、ハンガリーの25%、ギリシャ、ポルトガル、フィンランド、ポーランドの23%と続きます。
ここで興味深いのは、財政危機にある南欧諸国のギリシャやポルトガルが23%と上位にあるのに加え、イタリアが20%、一番低いスペインでも18%の税率を課せられていることです。南欧諸国では増税の余地があまり残されていないのです。これは、財政再建が極めて難しいことを浮き彫りにしています。
これに対して、日本の消費税率は最下位の5%です。日本が投機マネーの攻撃を受けて財政危機に直面したとしても、消費税の税率を15%~20%に引き上げれば、瞬時にして財政危機を回避することができます。
それと同時に、社会保障制度改革に伴う歳出削減策も行えば、早期の財政健全化の目途がつき、巨額の債務を少しずつでも減らすことが可能になります。
日本人は愚かではありません。実際、2010年にギリシャ危機が話題になって以降、世論調査では増税容認派が目立って増えてきています。問題なのは、この国民の危機感がまったく政治に届いていないことです。せっかく世論が背中を押しているのに、消費税引き上げは選挙にマイナスだという理由で、政治家は決断の先延ばしをしようとしています。
~中略~
国民は財政再建を受け入れざるをえません。このまま社会保障費の膨張を放置し、国家が破綻する道を選ぶのか、それとも、自分たちの生活が苦しくなっても、財政再建で国が生き残る道を選ぶのか。残された道が2つに1つしかないのなら、国民は後者を選ぶしかありません。
なぜなら、もし財政再建を受け入れなければ、手厚い社会保障を失う以上の苦難に直面することを、私たち自身が本能的に理解しているからです。
国家破産で得をするのは、借金が帳消しになる人だけです。ところが、日本人の1世帯あたり平均貯蓄額は、負債を差し引いても1100万円を超えています。コツコツ貯めてきた貯蓄がゼロになることを望む人は、おそらく1人もいないでしょう。
政府から「国家破産か、財政再建か」という2つの選択肢を示されれば、大多数の国民はやむなく財政再建を選ばざるをえず、消費税による大増税と社会保障費の大幅な削減を受け入れるしかないのです。
(引用終わり)
4月15日の記事でも述べたように、その後、野田政権が消費税増税法案を成立させたことで財政危機は遠のいたように見えましたが、黒田日銀の誕生により再び危機への懸念が高まってきているように思われます。
もちろん、増税はしないにこしたことはありませんが、「増税をしなくても大丈夫だ」と言い放つ政治家や評論家がいるとすれば、それは国民に媚びているだけで、無責任極まりない発言であると思います。
彼らは「名目成長率が3%~4%になれば、増税の必要はない」と主張しています。確かにその通りですが、その成長率を達成するのは夢物語としか言いようがないからです。世界経済が過去30年間でいちばん良い時期だと言われていた2004年~2007年の時期であっても、日本の名目成長率は平均してわずかに1.0%だったのです。
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その意味では、「財政危機」と「財政破綻」はきっちりと分けて考える必要があります。「国債暴落=国家破綻」と短絡的に考えていると、事態の推移を大きく見誤ってしまいます。おまけに、日本の破綻など、海外の国々はもちろん、日本国民が認めるはずがないのです。
そのことについて、拙書「2013年 大暴落後の日本経済」(2011年出版)からの引用になりますが、象徴する文章をご紹介したいと思います。
(以下、拙書第5章の「日本は財政破綻しない」より引用)
最近、書店に行くと、「日本は財政破綻する」といった内容の本が目につくようになりました。欧州の財政危機が日本のメディアでも繰り返し報道されるようになり、国民の間にも危機感が広まりつつある証拠であるのかもしれません。
しかし私は、日本が財政破綻することはないと考えています。なぜなら、日本は大増税と歳出削減をセットで行えば、財政危機の難局を乗り越えることができるからです。他の国々に比べ、日本にはまだ消費税増税の余地が多分にあります。
OECD加盟国で見ると、欧州を中心に大半の国々では、日本の消費税に当たる付加価値税が15%~25%の水準で課せられています。税率が高い順番に並べてみると、アイスランドの25・5%を筆頭に、スウェーデン、ノルウェー、デンマーク、ハンガリーの25%、ギリシャ、ポルトガル、フィンランド、ポーランドの23%と続きます。
ここで興味深いのは、財政危機にある南欧諸国のギリシャやポルトガルが23%と上位にあるのに加え、イタリアが20%、一番低いスペインでも18%の税率を課せられていることです。南欧諸国では増税の余地があまり残されていないのです。これは、財政再建が極めて難しいことを浮き彫りにしています。
これに対して、日本の消費税率は最下位の5%です。日本が投機マネーの攻撃を受けて財政危機に直面したとしても、消費税の税率を15%~20%に引き上げれば、瞬時にして財政危機を回避することができます。
それと同時に、社会保障制度改革に伴う歳出削減策も行えば、早期の財政健全化の目途がつき、巨額の債務を少しずつでも減らすことが可能になります。
日本人は愚かではありません。実際、2010年にギリシャ危機が話題になって以降、世論調査では増税容認派が目立って増えてきています。問題なのは、この国民の危機感がまったく政治に届いていないことです。せっかく世論が背中を押しているのに、消費税引き上げは選挙にマイナスだという理由で、政治家は決断の先延ばしをしようとしています。
~中略~
国民は財政再建を受け入れざるをえません。このまま社会保障費の膨張を放置し、国家が破綻する道を選ぶのか、それとも、自分たちの生活が苦しくなっても、財政再建で国が生き残る道を選ぶのか。残された道が2つに1つしかないのなら、国民は後者を選ぶしかありません。
なぜなら、もし財政再建を受け入れなければ、手厚い社会保障を失う以上の苦難に直面することを、私たち自身が本能的に理解しているからです。
国家破産で得をするのは、借金が帳消しになる人だけです。ところが、日本人の1世帯あたり平均貯蓄額は、負債を差し引いても1100万円を超えています。コツコツ貯めてきた貯蓄がゼロになることを望む人は、おそらく1人もいないでしょう。
政府から「国家破産か、財政再建か」という2つの選択肢を示されれば、大多数の国民はやむなく財政再建を選ばざるをえず、消費税による大増税と社会保障費の大幅な削減を受け入れるしかないのです。
(引用終わり)
4月15日の記事でも述べたように、その後、野田政権が消費税増税法案を成立させたことで財政危機は遠のいたように見えましたが、黒田日銀の誕生により再び危機への懸念が高まってきているように思われます。
もちろん、増税はしないにこしたことはありませんが、「増税をしなくても大丈夫だ」と言い放つ政治家や評論家がいるとすれば、それは国民に媚びているだけで、無責任極まりない発言であると思います。
彼らは「名目成長率が3%~4%になれば、増税の必要はない」と主張しています。確かにその通りですが、その成長率を達成するのは夢物語としか言いようがないからです。世界経済が過去30年間でいちばん良い時期だと言われていた2004年~2007年の時期であっても、日本の名目成長率は平均してわずかに1.0%だったのです。
2013年04月15日
黒田日銀の金融緩和に対する懸念
私はかつて拙書「2013年 大暴落後の日本経済」(2011年出版)の中で、日本が欧州債務危機を教訓として早急に財政再建に着手しなければ、国債利回りが急騰し財政危機に陥るリスクが高まるという警鐘を鳴らしました。
財政危機のリスクを高める前提条件としては、①欧州で債務危機の抜本的な解決策がまとまること、②それまでに日本の消費税増税が行われない見通しにあること、の二つを挙げましたが、日本にとっては幸い、いずれの前提条件も満たされていません。
欧州の債務危機では、キプロスの財政危機が一区切りついた形になっていますが、今年中にもスロベニアがEUに支援を要請する可能性が高まってきています。また、スペインでは銀行の財務悪化が止まらず、ポルトガルでも政府が決めた歳出削減策がとん挫しかかっています。欧州の債務問題は依然として金融市場で蒸し返される状況にあるのです。
その一方で、日本では野田政権下で消費税増税の法案が通り、安倍政権は参議院選挙を控えて増税実施の明言を避けていますが、間違いなく消費税増税は実施されます。というのも、安倍首相は消費税引き上げについて、「2013年4-6月期のGDPを見て判断する」と公言しているからです。安部首相のこの発言を受けて、財務省の職員は年末年始に徹夜を重ねて、予算の執行時期を調整するなどして、2013年4-6月期のGDPが良くなるようにすでに環境を整えています。
以上のような状況から私は、日本の財政は金融市場から5年くらいの猶予を与えられ、その間に「医療」「農業」「観光」「環境技術」などの成長産業を地道に育成していけば、財政と経済の両方に明るさが見えてくるだろうと考えていました。(成長産業の育成については、拙書「日本経済大消失~生き残りと復活の新戦略」(2012年出版)で詳しく述べていますので、興味のある方はご覧ください。)
ところが、先日の黒田日銀の金融緩和策を見て、私の考えは完全に修正を迫られました。金融市場で今は「良い円安」と評価されているものが、突如として「悪い円安」に豹変する可能性が以前にも増して高まってくるからです。もちろん、「悪い円安」は国債利回りの急騰を引き起こしますので、5年くらいの猶予期間は確実に縮まったと見るべきでしょう。金融市場の恐いところは、1週間か2週間もあれば雰囲気ががらっと変わってしまうことです。
ある経済誌の記者から「国債をいくら刷っても大丈夫だ」という誤った知識が広まっているという話を聞きましたが、2020年までには日本が経常赤字国に転落するというコンセンサスの中で、そのような考えは非常に危険であると考えています。それどころか、100円前後の円安が定着すれば、2013年か2014年には日本が経常赤字に転落してしまうかもしれないのです。
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財政危機のリスクを高める前提条件としては、①欧州で債務危機の抜本的な解決策がまとまること、②それまでに日本の消費税増税が行われない見通しにあること、の二つを挙げましたが、日本にとっては幸い、いずれの前提条件も満たされていません。
欧州の債務危機では、キプロスの財政危機が一区切りついた形になっていますが、今年中にもスロベニアがEUに支援を要請する可能性が高まってきています。また、スペインでは銀行の財務悪化が止まらず、ポルトガルでも政府が決めた歳出削減策がとん挫しかかっています。欧州の債務問題は依然として金融市場で蒸し返される状況にあるのです。
その一方で、日本では野田政権下で消費税増税の法案が通り、安倍政権は参議院選挙を控えて増税実施の明言を避けていますが、間違いなく消費税増税は実施されます。というのも、安倍首相は消費税引き上げについて、「2013年4-6月期のGDPを見て判断する」と公言しているからです。安部首相のこの発言を受けて、財務省の職員は年末年始に徹夜を重ねて、予算の執行時期を調整するなどして、2013年4-6月期のGDPが良くなるようにすでに環境を整えています。
以上のような状況から私は、日本の財政は金融市場から5年くらいの猶予を与えられ、その間に「医療」「農業」「観光」「環境技術」などの成長産業を地道に育成していけば、財政と経済の両方に明るさが見えてくるだろうと考えていました。(成長産業の育成については、拙書「日本経済大消失~生き残りと復活の新戦略」(2012年出版)で詳しく述べていますので、興味のある方はご覧ください。)
ところが、先日の黒田日銀の金融緩和策を見て、私の考えは完全に修正を迫られました。金融市場で今は「良い円安」と評価されているものが、突如として「悪い円安」に豹変する可能性が以前にも増して高まってくるからです。もちろん、「悪い円安」は国債利回りの急騰を引き起こしますので、5年くらいの猶予期間は確実に縮まったと見るべきでしょう。金融市場の恐いところは、1週間か2週間もあれば雰囲気ががらっと変わってしまうことです。
ある経済誌の記者から「国債をいくら刷っても大丈夫だ」という誤った知識が広まっているという話を聞きましたが、2020年までには日本が経常赤字国に転落するというコンセンサスの中で、そのような考えは非常に危険であると考えています。それどころか、100円前後の円安が定着すれば、2013年か2014年には日本が経常赤字に転落してしまうかもしれないのです。
keizaiwoyomu at 13:21|この記事のURL│金融政策の分析・予測
2013年04月08日
米国経済が復活する理由(2)
シェールガスが「革命」と言われるほどの理由は、その圧倒的な価格の安さにあります。天然ガスの価格はその時々の需給によって決まるものですが、安価なシェールガスの生産量が増加すればするほど、従来の天然ガス価格にも大きな下落圧力が働いていきます。その結果、米国では低価格で安定したエネルギーの確保が持続可能となるのです。
実際に、米国の天然ガスの指標価格は、2000年代から価格の上昇と下落を繰り返しながら右肩上がりの基調を描いてきましたが、2000年代半ばからシェールガスの生産量が急激に増加していくのを受けて、価格が急激に下落していくこととなりました。驚くべきことに、2008年には100万BTU(英国熱量単位)あたり12.5ドルを超えていた価格は、2012年には一時的とはいえ2ドルを割り込む場面もあったほどです。
留意すべきは、シェールガスの量産化では米国が技術的に他国を凌駕していて圧倒的に有利な状況にある中で、シェールガスの生産量がまだ天然ガス全体の生産量の3割近くに達したにすぎないということです。シェールガスの工業的な量産化については、米国が技術的に他国を凌駕していて圧倒的に有利な状況にあります。
今後もシェールガスの生産における技術革新やインフラ整備が進み、産出量が飛躍的に伸びることは間違いありません。たとえ米国内での需要が増加したとしても、天然ガスの価格は低位安定することがほぼ約束されているのです。
2012年の米国の天然ガス価格は大まかには2ドル~4ドルの範囲内で推移しています。日本が同じ年にアジアから輸入している天然ガス価格(液化天然ガス)は16ドル~18ドルですから、米国の製造業がエネルギーを原油からガスへと転換することを推し進めれば、近い将来、日本の製造業は米国に太刀打ちできなくなってしまうでしょう。
国際エネルギー機関(IEA)によれば、米国が2015年までにロシアを抜いて世界最大の天然ガス生産国になるということです。また、2017年までにサウジアラビアを抜いて世界最大の原油生産国にもなるというのですが、何といっても世界で最も安いシェールガスが米国の製造業の復活、ひいては米国経済の復活と深く結びついていると言えそうです。
シェールガス革命によるエネルギー価格の低下は、米国の製造業の生産コストを引き下げるだけでなく、海外へ移転した工場をも国内に呼び戻し、さらには国内での新たな設備投資を生みだすという好循環をもたらしています。米国の産業界では、安価なシェールガスを積極的に利用できる体制へと急速に方向転換を始めているのです。
米国の企業のあいだでは、安価なシェールガスを使って国際競争力を高めようとする動きが広がってきているのですが、実は、この動きは何も米国の企業に限ったことではありません。欧州や日本などの先進国の企業もシェールガスの利用を前提にして、米国での工場の建設を決定しているのです。
さらに、新興国の企業までもが生産コストを下げるために、先進国の雄である米国に工場を建設しようとする逆転現象まで起こり始めています。地理的に近いブラジルやメキシコはもちろん、中国や南アフリカ、韓国、台湾など世界中の新興国から米国に進出する企業が増えてきているのです。
このような一連の流れを見ていると、米国産のシェールガスは世界のエネルギー構造を劇的に変えるだけでなく、米国の製造業のコスト競争力を飛躍的に高めていくことになるでしょう。その結果、今後も国内外から米国への設備投資が増え続け、米国の雇用も増加傾向を辿ることになるでしょう。すなわち、経済が悪いと言われている先進国の中で、米国が逸早く復活するということなのです。
(以上、引用終わり)
ただし注意すべきは、全体として米国企業の業績が好調な中、労働分配率は低下の一途を辿っており、国民の生活水準は決して上がる兆しを見せていないことです。企業の業績が多少悪くなっても、労働分配率が上がらないことには、本当の景気回復とは言えない可能性も出てくるのです。
それでも米国の凄いところは、シェール革命に続く新たなイノベーションがすでに芽生えていることです。このことについては、次回の新刊で述べたいと思います。
最後に余談ですが、私が日銀の新しい金融緩和策の内容を聞いて直感的に思ったことは、何てバカなことをやったのだということです。このことについても、次の機会に述べなければならないでしょう。
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実際に、米国の天然ガスの指標価格は、2000年代から価格の上昇と下落を繰り返しながら右肩上がりの基調を描いてきましたが、2000年代半ばからシェールガスの生産量が急激に増加していくのを受けて、価格が急激に下落していくこととなりました。驚くべきことに、2008年には100万BTU(英国熱量単位)あたり12.5ドルを超えていた価格は、2012年には一時的とはいえ2ドルを割り込む場面もあったほどです。
留意すべきは、シェールガスの量産化では米国が技術的に他国を凌駕していて圧倒的に有利な状況にある中で、シェールガスの生産量がまだ天然ガス全体の生産量の3割近くに達したにすぎないということです。シェールガスの工業的な量産化については、米国が技術的に他国を凌駕していて圧倒的に有利な状況にあります。
今後もシェールガスの生産における技術革新やインフラ整備が進み、産出量が飛躍的に伸びることは間違いありません。たとえ米国内での需要が増加したとしても、天然ガスの価格は低位安定することがほぼ約束されているのです。
2012年の米国の天然ガス価格は大まかには2ドル~4ドルの範囲内で推移しています。日本が同じ年にアジアから輸入している天然ガス価格(液化天然ガス)は16ドル~18ドルですから、米国の製造業がエネルギーを原油からガスへと転換することを推し進めれば、近い将来、日本の製造業は米国に太刀打ちできなくなってしまうでしょう。
国際エネルギー機関(IEA)によれば、米国が2015年までにロシアを抜いて世界最大の天然ガス生産国になるということです。また、2017年までにサウジアラビアを抜いて世界最大の原油生産国にもなるというのですが、何といっても世界で最も安いシェールガスが米国の製造業の復活、ひいては米国経済の復活と深く結びついていると言えそうです。
シェールガス革命によるエネルギー価格の低下は、米国の製造業の生産コストを引き下げるだけでなく、海外へ移転した工場をも国内に呼び戻し、さらには国内での新たな設備投資を生みだすという好循環をもたらしています。米国の産業界では、安価なシェールガスを積極的に利用できる体制へと急速に方向転換を始めているのです。
米国の企業のあいだでは、安価なシェールガスを使って国際競争力を高めようとする動きが広がってきているのですが、実は、この動きは何も米国の企業に限ったことではありません。欧州や日本などの先進国の企業もシェールガスの利用を前提にして、米国での工場の建設を決定しているのです。
さらに、新興国の企業までもが生産コストを下げるために、先進国の雄である米国に工場を建設しようとする逆転現象まで起こり始めています。地理的に近いブラジルやメキシコはもちろん、中国や南アフリカ、韓国、台湾など世界中の新興国から米国に進出する企業が増えてきているのです。
このような一連の流れを見ていると、米国産のシェールガスは世界のエネルギー構造を劇的に変えるだけでなく、米国の製造業のコスト競争力を飛躍的に高めていくことになるでしょう。その結果、今後も国内外から米国への設備投資が増え続け、米国の雇用も増加傾向を辿ることになるでしょう。すなわち、経済が悪いと言われている先進国の中で、米国が逸早く復活するということなのです。
(以上、引用終わり)
ただし注意すべきは、全体として米国企業の業績が好調な中、労働分配率は低下の一途を辿っており、国民の生活水準は決して上がる兆しを見せていないことです。企業の業績が多少悪くなっても、労働分配率が上がらないことには、本当の景気回復とは言えない可能性も出てくるのです。
それでも米国の凄いところは、シェール革命に続く新たなイノベーションがすでに芽生えていることです。このことについては、次回の新刊で述べたいと思います。
最後に余談ですが、私が日銀の新しい金融緩和策の内容を聞いて直感的に思ったことは、何てバカなことをやったのだということです。このことについても、次の機会に述べなければならないでしょう。
2013年04月01日
米国経済が復活する理由(1)
昨年12月28日の記事「円安時代が始まる」の最後のほうで、米国経済の復活の見通しが早まってきている理由についてまたの機会に述べたいとしていましたが、そのことをすっかり忘れておりました。
ですから、今回から2回に分けて、米国経済の復活が早まってきている理由について述べたいと思います。なお、本文は前回の新刊購入プレゼントお申込み者に昨年12月28日に送信させていただいた『2013年の経済展望レポート』より引用して、最後に補足を加えたいと思います。
(以下、『2013年の経済展望レポート』より引用)
米国の経済が本格的に良くなる兆候を見せ始めています。私は昨年の半ば頃までは、米国は日本がこれまで経験してきた「失われた10年」と同じような命運をたどるのではないかと見ていました。なぜかというと、米国経済の景気低迷を長引かせる要因が、日本と同じく「バランスシート不況」にあるからでした。
米国では、リーマンショック以降、不動産価格の下落によって住宅ローン返済の負担が重くなる一方、経済の中核を担う中間層の収入が減少することによって、家計のバランスシートが著しく悪化してしまいました。その結果、米国のGDPの約7割を占める個人消費が思うように伸びず、景気回復の重い足かせとなっています。
日本のバブル崩壊時には、地価の暴落によって、土地を担保に膨大な借金をしていた企業のバランスシートが大幅に悪化しました。その後、企業が借金を返済することを優先し、設備投資が長期的に冷え込むこととなりました。このことが、日本の「失われた10年」を招く直接の原因となったのです。
一方、米国の場合、傷んでいるのは家計のバランスシートです。住宅バブルが崩壊する以前の米国では、住宅価格の値上がり分を担保に借金してモノを買うという「ホームエクイティ・ローン」が消費を大きく上振れさせていました。
ところが、それまでの流れが逆回転し住宅価格が下落に転じると、家計のバランスシートが急速に悪化し、家計は借金返済を優先せざるを得ない状況に陥りました。
日本の歴史が示しているように、バランスシート不況が沈静化するためには、10年単位の時間が必要です。2007年の住宅バブル崩壊から2013年は7年目です。ということは、あと4年は経済の低迷が続くという見通しが立てられます。
しかし、これは裏を返せば、バランスシート不況はあと4年で解消に向かうということでもあります。すなわち、米国経済はあと4年で復活できると言うこともできるのです。
実際に、失われた10年の半ばを過ぎたせいか、米国の住宅価格は最悪期を脱しつつあります。代表的な住宅指標であるS&Pケース・シラー全米住宅価格指数を見ると、主要10都市と20都市の平均がともに、2012年の2月~3月にかけて住宅バブル崩壊後の最低値を付けた後は、強い反転姿勢を見せ始め、明らかに住宅価格が大底を打ったことを示しています。
さらに、住宅価格を中心に不動産価格が上昇に転じたことで、家計のバランスシートの改善が進むだけでなく、銀行の不良債権が減少の一途を辿っていることも見逃してはなりません。なぜなら、銀行の財務の改善が進むことによって、雇用の拡大がもたらされるからです。
ついさきほど、米国経済はあと4年で復活できるということを言いました。しかし私は、前言を撤回するようですが、米国経済は早ければ2014年~2015年にも復活できると考えています。その理由は、米国では現在、将来の経済を大復活させる産業の一大イノベーション、すなわち「シェールガス革命」が起きているからです。
(次回に続く)
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ですから、今回から2回に分けて、米国経済の復活が早まってきている理由について述べたいと思います。なお、本文は前回の新刊購入プレゼントお申込み者に昨年12月28日に送信させていただいた『2013年の経済展望レポート』より引用して、最後に補足を加えたいと思います。
(以下、『2013年の経済展望レポート』より引用)
米国の経済が本格的に良くなる兆候を見せ始めています。私は昨年の半ば頃までは、米国は日本がこれまで経験してきた「失われた10年」と同じような命運をたどるのではないかと見ていました。なぜかというと、米国経済の景気低迷を長引かせる要因が、日本と同じく「バランスシート不況」にあるからでした。
米国では、リーマンショック以降、不動産価格の下落によって住宅ローン返済の負担が重くなる一方、経済の中核を担う中間層の収入が減少することによって、家計のバランスシートが著しく悪化してしまいました。その結果、米国のGDPの約7割を占める個人消費が思うように伸びず、景気回復の重い足かせとなっています。
日本のバブル崩壊時には、地価の暴落によって、土地を担保に膨大な借金をしていた企業のバランスシートが大幅に悪化しました。その後、企業が借金を返済することを優先し、設備投資が長期的に冷え込むこととなりました。このことが、日本の「失われた10年」を招く直接の原因となったのです。
一方、米国の場合、傷んでいるのは家計のバランスシートです。住宅バブルが崩壊する以前の米国では、住宅価格の値上がり分を担保に借金してモノを買うという「ホームエクイティ・ローン」が消費を大きく上振れさせていました。
ところが、それまでの流れが逆回転し住宅価格が下落に転じると、家計のバランスシートが急速に悪化し、家計は借金返済を優先せざるを得ない状況に陥りました。
日本の歴史が示しているように、バランスシート不況が沈静化するためには、10年単位の時間が必要です。2007年の住宅バブル崩壊から2013年は7年目です。ということは、あと4年は経済の低迷が続くという見通しが立てられます。
しかし、これは裏を返せば、バランスシート不況はあと4年で解消に向かうということでもあります。すなわち、米国経済はあと4年で復活できると言うこともできるのです。
実際に、失われた10年の半ばを過ぎたせいか、米国の住宅価格は最悪期を脱しつつあります。代表的な住宅指標であるS&Pケース・シラー全米住宅価格指数を見ると、主要10都市と20都市の平均がともに、2012年の2月~3月にかけて住宅バブル崩壊後の最低値を付けた後は、強い反転姿勢を見せ始め、明らかに住宅価格が大底を打ったことを示しています。
さらに、住宅価格を中心に不動産価格が上昇に転じたことで、家計のバランスシートの改善が進むだけでなく、銀行の不良債権が減少の一途を辿っていることも見逃してはなりません。なぜなら、銀行の財務の改善が進むことによって、雇用の拡大がもたらされるからです。
ついさきほど、米国経済はあと4年で復活できるということを言いました。しかし私は、前言を撤回するようですが、米国経済は早ければ2014年~2015年にも復活できると考えています。その理由は、米国では現在、将来の経済を大復活させる産業の一大イノベーション、すなわち「シェールガス革命」が起きているからです。
(次回に続く)



